犬の腹腔内潜在精巣摘出術|お腹の中に残っている精巣はとるべきなの?
犬の精巣が正常に陰嚢に降りない場合があることをご存じでしょうか?
精巣が陰嚢に降りずにお腹の中や皮膚の下に残ってしまうことを潜在精巣と呼びます。
今回は潜在精巣の中でも、特にお腹の中に精巣が残ってしまう腹腔内潜在精巣について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬が腹腔内潜在精巣と診断された時のためにお役立てください。
犬の潜在精巣について
犬の潜在精巣とは、精巣が陰嚢に降りずに腹腔内や鼠径部に留まっている状態のことです。
精巣は生後まもない時は腹腔内にありますが、精巣下降と言って以下の順で陰嚢に移動します。
- 腹腔内
- 鼠経輪(腹腔と鼠径部をつなぐ穴)
- 鼠径部皮下
- 陰嚢
精巣下降は生後1ヶ月から始まり、遅くとも生後6ヶ月には完了します。
生後6ヶ月を過ぎても精巣下降が完了していない場合は潜在精巣と診断されます。
腹腔内潜在精巣の場合は、超音波検査によって腹腔内に精巣があることを確認することが必要です。
潜在精巣の機能
潜在精巣の機能は、正常な精巣と比べてどう違うのでしょうか。
まず、潜在精巣は正常な精子を作ることができません。
左右両方が潜在精巣の犬は生殖能力がありませんが、片方だけが潜在精巣の場合は生殖能力があります。
一方で、性ホルモンは正常に産生することができるため、マーキングやマウンティングなどのオス特有の行動は失われません。
潜在精巣と疾患のリスク
潜在精巣がある場合、疾患のリスクが大きく分けて2つあります。
- 潜在精巣の腫瘍化
- 性ホルモン関連疾患
それぞれ詳しく見ていきましょう。
潜在精巣の腫瘍化
潜在精巣は正常な精巣よりも腫瘍化しやすいです。
その確率は、潜在精巣を持つ犬で約10%と言われています。
若いうちに摘出手術を行って腫瘍化を防ぐことが望ましいですね。
性ホルモン関連疾患
潜在精巣があると、性ホルモン関連疾患のリスクがあります。
正常な精巣と同様に、潜在精巣からも性ホルモンは分泌されるためです。
代表的なものとして以下の疾患が挙げられます。
- 前立腺炎
- 肛門周囲腺腫
- 鼠経ヘルニア
- 会陰ヘルニア
これらの疾患は潜在精巣を摘出することで予防することができます。
犬の腹腔内潜在精巣摘出術の適応
犬の腹腔内潜在精巣摘出術は、腹腔内に存在する潜在精巣を摘出する手術です。
潜在精巣は腫瘍化するリスクが高いため、若いうちに摘出することが望ましいですね。
一般的に去勢手術は6〜7か月齢で実施しますが、その時点で陰嚢に精巣が降りていなければ手術の適応になります。
犬の腹腔内潜在精巣摘出手術の術式
腹腔内潜在精巣摘出術は、開腹して腹腔内にある潜在精巣を摘出する手術です。
手術の手順としては、まずペニスのすぐ脇を切皮してお腹を開けます。
次に腹腔内を探索して潜在精巣を見つけ、潜在精巣の血管と精管を縛って切断します。
両方の潜在精巣を摘出し、最後に皮膚を縫合して終わりです。
腹腔内の潜在精巣はすぐに見つからずに時間がかかることがあります。
片方の精巣が正常な場合は、もう1か所皮膚を切ることもありますね。
腹腔内潜在精巣が腫瘍化してしまった場合は手術が非常に難しくなります。
その理由は以下の通りです。
- 腫瘍化した精巣は非常に大きい
- 腫瘍が周りの組織と癒着していることがある
- 腫瘍は血流が豊富なため大出血のリスクがある
愛犬が難しい手術に臨まなくて良いように、若いうちに手術をしておくことをお勧めします。
腹腔内潜在精巣摘出術のメリット・デメリット
潜在精巣摘出術のメリットとデメリットには以下のものがあります。
愛犬が手術をするか迷っておられる方は判断材料にしてみてください。
メリット
腹腔内潜在精巣摘出術を行うメリットには以下のものがあります。
- 潜在精巣の腫瘍化の予防
- オス特有の行動の予防
- 性ホルモン関連疾患の予防
潜在精巣の腫瘍化の予防
潜在精巣を摘出すれば、精巣が腫瘍化することはなくなります。
オス特有の行動の予防
マーキングやマウンティングなどのオス特有の行動を予防することができます。
性ホルモン関連疾患の予防
性ホルモンの影響で発生する疾患を予防することができます。
潜在精巣を摘出することで、性ホルモンの分泌がなくなるためです。
デメリット
腹腔内潜在精巣摘出術を行うデメリットには以下のものがあります。
- 全身麻酔のリスク
- 太りやすくなる
全身麻酔のリスク
手術の際は全身麻酔が必要になるため、麻酔のリスクがあります。
若い犬の方が全身麻酔に耐える体力があるため、若いうちに手術をすることが推奨されます。
太りやすくなる
手術後は太りやすくなります。
精巣がなくなる分、生活するのに必要なカロリーが減るためです。
まとめ
犬の潜在精巣は腫瘍化することがあるため、早期に摘出することが重要です。
全身麻酔のリスクはありますが、若いうちに手術を実施すればダメージは最小限で済みます。
「うちの犬は精巣が触れないかも?」
と思ったら、当院までお気軽にご相談ください。
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