犬の縫合糸反応性肉芽腫|糸が原因で出来るしこりについて解説

走っているトイプードル

縫合糸反応性肉芽腫という言葉を聞いたことはありますか?
縫合糸反応性肉芽腫とは、手術の際に腹腔内や皮膚の表面を糸で結紮や縫合を行った箇所にしこりが出来る疾患です。
手術後に術部が腫れている、皮膚病のような症状が出ているなどでご来院される方も多い疾患です。

今回は縫合糸反応性肉芽腫の

  • 特徴
  • 症状
  • 治療法

について解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の縫合糸反応性肉芽腫について理解を深めましょう。

目次

縫合糸反応性肉芽腫とは

犬の縫合糸反応性肉芽腫は、手術時に使用した縫合糸が過剰な炎症反応を引き起こすことによって発生する腫瘤です。
縫合糸反応性肉芽腫は、縫合糸の周りに炎症細胞が集まりそれを線維細胞が取り囲むことによって塊を作っていきます。
縫合糸反応性肉芽腫には以下の特徴があります。

  • 避妊手術後や去勢手術後に多い
  • 絹糸使用後の発症が多い(非吸収性多繊維性縫合糸の使用)
  • ミニチュアダックスフンドに多い

縫合糸反応性肉芽腫は避妊去勢手術後に多いと言われています。
しかし「なぜ避妊去勢手術後に多いのか」ははっきりとした原因は分かっていません。
避妊手術では卵巣や子宮の血管に対して縫合糸を使用するので、卵巣と子宮の近くの腎臓や膀胱周囲に病変が出来ることもあります。
中には近くの腸を巻きこんで腫瘤が作られることもあり、その際は嘔吐や下痢、腹痛といった症状が見られます。
絹糸での発症が多いとされていますが、その他の種類の糸でも起きています。
また手術実施後1ヶ月後程度で診断される場合もあれば、2〜3年後に症状が出てくる場合もあります。
縫合糸反応性肉芽腫はどの犬種にも起こりうる疾患ですが、日本では免疫異常による疾患が多いミニチュアダックスフンドでの報告が多いです。

主な原因

縫合糸反応性肉芽腫の原因には、非吸収性多繊維性縫合糸の使用と無菌性の低い手術が挙げられます。
非吸収性多繊維性縫合糸の中でも特に絹糸での発症が多いとされています。
また清潔な環境で手術を行わないと、2次的な細菌感染をきっかけに肉芽腫が形成される場合もあるようですね。

道を歩くスムースコートミニチュアダックスフンド

症状

縫合糸反応性肉芽腫の症状には以下のものがあります。

  • 硬結感(しこり)
  • 腫脹や熱感
  • 漿液や膿の漏出(皮膚への瘻管の形成による)
  • 発熱
  • 元気や食欲の低下
  • 体重減少
  • 下痢や嘔吐

皮膚の表面に漿液や潰瘍が出ている場合は、一見すると皮膚病と間違う場合もあるかもしれません。
また元気や食欲の低下はその他の多くの疾患でも認められるため、診断に至るまでに時間を要する可能性もあります。

検査、診断

縫合糸反応性肉芽腫の検査、診断には以下のものがあります。

  • 視診や触診
  • 血液検査
  • 画像検査
  • FNA(針吸引)
  • 病理診断

縫合糸反応肉芽腫ではしこりが実際に触診出来る場合もあります。
その他にも発熱やリンパ節の腫脹といった全身症状がないかも併せて見ていくことが重要です。
血液検査では炎症の数値やスクリーニング検査で全身状態の確認を行います。
また超音波検査やレントゲン検査から腫瘤の位置や大きさを判断します。
より詳しく病変の大きさや部位、腸管や血管の巻き込みの有無などを確認する場合にはCT検査が有用です。
患部に液体が溜まっている場合は針で吸引し、液体の成分や感染の有無を確認します。
実際に手術でしこりをとった後、しこりの中から縫合糸が認められることがあり、そこで初めて原因が分かる場合もあります。

診察をされる雑種犬

治療法

縫合糸反応性肉芽腫の治療法には、手術による腫瘤の切除と抗炎症薬の使用があります。
縫合糸を中心とした肉芽腫を手術によって完全に切除した場合は予後良好です。
しかし周囲の組織を巻き込んでいたり、腫瘤の範囲がはっきりしない場合は完全切除が難しくなります。
また完全切除が難しい場合や、周りに炎症が強く見られている場合は、ステロイドや免疫抑制剤の使用をする場合もあります。

予防

縫合糸反応性肉芽腫の予防には以下のものがあります。

  • 体内に縫合糸を残さない術式の実施する
  • 吸収性の縫合糸の使用する
  • 清潔な環境で手術を行う

現在は血管シーリングデバイスの使用などにより、体内に縫合糸を残さない方法で手術を行うことができます。
また縫合糸を使用する場合は身体に吸収されるタイプの縫合糸を使用することにより縫合糸反応性肉芽腫が起きにくくなります。
そして清潔な環境で行うことで細菌感染をきっかけに縫合糸反応性肉芽腫が起きることを防ぎます。
ただし体質によっては完全に予防することは難しいため、術後も十分に注意して経過を見ていく必要があります。

まとめ

縫合糸反応性肉芽腫は手術実施後数年経ってから発覚する場合もあり、治療が長期に及ぶ場合もあります。
体質によっては完全に防ぐことも難しい疾患です。
しかし縫合糸反応性肉芽腫は早期の発見と適切な診断と治療を行えば完治が見込める疾患です。

当院では縫合糸反応性肉芽腫の治療実績も多いです。
一見すると皮膚病のような症状である場合もあるため、慎重に診断を進めていきます。
少しでもいつもと違う様子があった場合はすぐに当院にご相談ください。

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診察時間
9:00〜11:30
17:00〜18:30
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監修獣医師

柏原 誠也 獣医師のアバター 柏原 誠也 獣医師 伊那竜東動物病院 院長

2013年に宮崎大学獣医学科を卒業し、勤務獣医師を経て、兵庫県の動物病院グループ 医療センター長補佐・院長を歴任する。
2023年には動物病院京都本院の院長に就任する。
2024年に伊那竜東動物病院の院長に就任し、地域に高度な獣医療を提供している。

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