犬の鼠径ヘルニア整復術｜犬の鼠径部が腫れたら要注意

犬の鼠径ヘルニアは、鼠径部にお腹の中の脂肪や内臓が飛び出す病気です。
鼠径部は足の付け根とお腹の境目の部分です。
「そういえばうちの子は時々足の付け根が膨らんでいるかも」
そんな飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は犬の鼠径ヘルニアという病気とその治療について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬が鼠径ヘルニアと診断された時のためにお役立てください。

犬の鼠径ヘルニアについて

犬の鼠径ヘルニアとは、鼠径部の皮膚の下に腹腔内の臓器が飛び出す病気です。
腹腔と鼠径部は鼠径輪という小さな穴でつながっていますが、この穴が広がることで腹腔内にある臓器が出てしまいます。
飛び出した臓器はヘルニア嚢と呼ばれる袋に入っており、皮膚の上から触ることができます。
飼い主様が犬の鼠径部を触って、膨らんだヘルニア嚢に気づくことも多いです。
ただ、鼠径輪が小さいと飼い主様が気づかないことも多く、健康診断の際に獣医師が発見することがあります。

犬の鼠径ヘルニアの原因

犬の鼠径ヘルニアが起こる原因には以下のようなものがあります。

先天的に鼠径輪が大きい
未去勢
妊娠している

ひとつずつ見ていきましょう。

先天的に鼠径輪が広い

先天的に鼠径輪が大きい犬だと、鼠径ヘルニアが起こりやすいです。
健康診断の時に獣医師に鼠径輪の大きさをチェックしてもらいましょう。

未去勢

未去勢犬は鼠径ヘルニアが起こりやすいです。
鼠径輪は精巣の精管と血管が通る穴であり、去勢すると自然に閉じます。
鼠径ヘルニアを予防する意味でも、若いうちに去勢することが推奨されます。

妊娠

妊娠した犬でも鼠径ヘルニアが起こることがあります。
妊娠するとお腹の圧力が上がって鼠径輪が拡大し、臓器が押し出されやすくなるためです。

犬の鼠径ヘルニアの症状

犬の鼠径ヘルニアの症状は、どの臓器がヘルニア嚢に入っているかによって異なります。
以下の4つに分けてそれぞれ詳しく解説します。

脂肪が出ている
膀胱が出ている
腸が出ている
嵌頓（かんとん）になっている

脂肪が出ている場合

脂肪が出ている場合は、鼠径部にやわらかい膨らみが触れるだけで体調に異常は出ません。
犬の鼠径ヘルニアのほとんどはこの状態です。

膀胱が出ている場合

膀胱が出ている場合は、排尿障害が起こります。
ヘルニア嚢の中で膀胱や尿道が曲がることで尿が出にくくなるためです。
さらに、膀胱が腹腔内に戻らない状態だと尿道閉塞を起こす場合があります。

腸が出ている場合

腸が出ている場合は、腸閉塞を起こします。
腸閉塞を起こすと元気・食欲の低下や嘔吐の症状が現れます。

嵌頓になっている場合

嵌頓とは、飛び出た臓器が鼠径輪で締め付けられて血行が遮断された状態を指します。
ヘルニア嚢は固くて赤黒くなり、飛び出した臓器は壊死する可能性がありますね。
嵌頓の状態で緊急手術を行わないと、犬が死亡する危険があります。

犬の鼠径ヘルニア整復術の適応

犬の鼠径ヘルニア整復術は、飛び出た臓器を腹腔内に戻して鼠径輪を閉じる手術です。
根本的な解決のためには、手術をする必要があります。
ただ、鼠径ヘルニアがあっても何の症状もなく過ごしていることが多いので、飼い主様は判断に迷いますよね。
犬の鼠径ヘルニア整復術の適応になるのは以下のケースです。

鼠径輪が大きい
膀胱や腸が出ている
嵌頓になっている

それぞれについて解説します。

鼠径輪が大きい場合

鼠径輪が大きい場合は、腸や膀胱が飛び出るのを予防するために手術が必要です。
脂肪しか出ていないと症状は特に出ませんが、やがて腸や膀胱が出る危険があります。
緊急性はないため、去勢手術や避妊手術の際に同時に実施するのが推奨されます。

膀胱が腸が出ている場合

すでに膀胱や腸が出ている場合は、排尿障害や腸閉塞の恐れがあるため手術が必要です。
排尿障害や腸閉塞を起こすと、命に関わる場合もあります。

嵌頓になっている場合

嵌頓になっている場合は、緊急手術が必要です。
嵌頓になると、膨らんだヘルニア嚢が固くて赤黒くなるのが特徴です。
飛び出た臓器が鼠径輪で締め付けられており、血行が遮断されて壊死する危険があります。

犬の鼠径ヘルニア整復術の術式

犬の鼠径ヘルニア整復術は、ヘルニア嚢に出た臓器を戻して再発を予防する手術です。
まず、ヘルニア嚢の直上の皮膚をメスで切開し、ヘルニア嚢とそれ以外の組織を分離します。
中身の臓器を腹腔内に戻した上で、膨らんだヘルニア嚢を切除します。
臓器が二度と飛び出ないように鼠径輪を縫い閉じ、最後に切開した皮膚を縫合して終わりです。
嵌頓を起こしている場合は、臓器の壊死した部分を切除することもあります。
壊死した部分を切除しないと、敗血症性ショックを起こして死亡するためです。