犬の前十字靭帯断裂と手術|TPLOについて【獣医師が解説】

ボールを咥えて走るボーダーコリー

犬の前十字靭帯断裂と手術|TPLOについて【獣医師が解説】

愛犬にこれらのような症状はありませんか?
「後ろ足をあげて歩いている」
「後ろ足の使い方がぎこちない」
「後ろ足を触ると痛がる」
このような症状がある犬は、もしかすると前十字靭帯とよばれる後ろ足の靭帯が切れてしまっているかもしれません。

今回は犬の前十字靭帯断裂について、そしてその治療方法の1つであるTPLO手術について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、前十字靭帯断裂や前十字靭帯断裂の治療法についての理解を深め、愛犬のいざという時の参考にしていただければと思います。

目次

犬の前十字靭帯断裂について

犬の前十字靭帯が切れてしまうとどうなってしまうのでしょうか。
前十字靭帯断裂の解説と一緒に前十字靭帯についても解説していきます。

犬の前十字靭帯って何?

犬の前十字靭帯とは、後ろ足の膝にある靭帯のことで、骨と骨をつなぐロープのような役割をしています。
前十字靭帯があることにより、膝の関節がスムーズに機能し、関節がずれないようになっています。
前十字靭帯が切れてしまったり、靭帯の一部がダメージを負ってしまうと、痛みを感じたり、膝関節が不安定になってしまうためしっかりと足をついて歩くことができません。

どうして靭帯が切れるの?

犬の前十字靭帯が切れてしまう多くの原因は、年を重ねていくにつれて靭帯が老化していくことと言われています。
犬は散歩や階段の上り下りなどの日々の生活の中でたくさん足を使っていて、1つ1つの動きが靭帯への小さなダメージとなり、ある日の小さな負荷で、靭帯断裂を起こしてしまいます。
人ではスポーツなどの一度に大きな負荷がかかることで断裂しやすいと言われていますが、犬ではそのようなことは少ないです。
犬の前十字靭帯断裂には、完全に靭帯が切れてしまう完全断裂と、一部が切れてしまう部分断裂があります。

どんな犬に多い?

どのような犬にも前十字靭帯断裂のリスクはありますが、特に次のような特徴がある犬は前十字靭帯断裂のリスクが高まります。

  • 肥満気味である
  • 7歳以上である
  • 活発で動くことが好きである

愛犬が肥満気味の場合は、体重管理をすることで前十字靭帯断裂のリスクを下げられるかもしれませんね。

どんな症状が出るの?

前十字靭帯断裂や部分断裂が起こると、次のような症状が出ることがあります。

  • 片方の後ろ足にできるだけ力をかけず、ぴょこぴょことぎこちなく歩く
  • 片方の後ろ足を全く床につけずに、ケンケンのように浮かせて歩く
  • 後ろ足の関節からカクッと音がする
  • 膝関節付近を触ると痛がる

片方の足の前十字靭帯が切れてしまうと、多くの確率でもう片足の前十字靭帯も断裂すると言われています。
これは、前十字靭帯を痛めた足を庇うように歩くことで、必然的にもう片方の足に負担がかかるためです。

ボールを咥えてジャンプするヨークシャーテリア

前十字靭帯断裂の治療法

前十字靭帯断裂の治療方法には、大きく分けて2つあります。
薬で症状を和らげる内科的治療と、根本的に問題を解決する外科的治療です。

それぞれの治療方法について解説していきましょう。

内科的治療

内科的治療では、薬で痛みを取ったり、安静にすることで症状の改善を期待します。

  • 消炎鎮痛剤の服用
  • サプリメントの服用
  • 散歩を控えてケージ内での生活
  • ダイエット

内科的治療は、小型犬や高齢犬で選ばれることがあります。
前十字靭帯断裂は、内科的治療で症状の改善はみられるものの完治することは難しく、再発してしまったり痛みが続いてしまうことがあるので注意が必要です。

外科的治療

前十字靭帯断裂を根本から治療するには、手術が必要になります。
靭帯断裂によって損傷してしまった組織を取り除いたり、断裂してしまった靭帯の代わりになるものを設置し、関節を安定させなければなりません。

前十字靭帯断裂の外科的治療には様々な手術方法があります。

関節の内側で人工靱帯や自己筋膜を使って膝関節を安定させる

  • 大体筋膜紐法
  • OVER THE TOP法
  • OVER THE TOP変法
  • 人工靱帯法 など

関節の外側から糸を使って膝関節を安定させる

  • FLO関節包外制動術
  • TIGHT ROPE法 など

関節に関わる骨(脛骨)を切って角度を調整することで膝関節を安定させる

  • TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)

このように様々な手術方法があるのですが、現在最も治療効果が高いとされている方法がTPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)です。

ここからはTPLOについて詳しく解説していきます。

手術室の様子

TPLOとは?

TPLOとは、膝の骨(脛骨)の角度を変えて、靭帯がなくても骨だけで膝関節を安定させることのできる手術です。Tibial Plateau Leveling Osteotomyを正式名称とし、日本語では脛骨高平部水平化骨切り術とよばれます。

なぜTPLOが選ばれるのか?

TPLOは従来の手術方法に比べて、術後の経過がとてもよく、注目されています。
合併症が少ないだけでなく、多くの犬が走ったり遊んだりとこれまでと同じ生活を送ることができるようになります。

TPLOの流れ

TPLOの手術は全身麻酔をかけて実施します。おおまかな流れは次の通りです。

関節内の確認

前十字靭帯の断裂の程度を確認し、断裂した靭帯を取り除きます。
半月板と呼ばれる組織の状態も確認し、必要に応じて取り除きます。

骨(脛骨)の骨切り

脛骨の一部を決められた形で切ります。

骨片の回転

切った骨を元の場所から少し回転させます。
この骨を回転させ角度を変えることで、膝にかかる力の向きを変え、靭帯がなくても膝関節が安定するようになります。

プレートで固定

金属プレートで、切って角度を変えた骨を動かないように固定します。

術後の過ごし方は?

いままで通りに足を使えるようになるためには、術後の安静とリハビリが大切です。

術後1〜2週間

安静にしましょう。
ケージレストといってトイレ以外はケージの中で過ごせるとなお良いでしょう。

傷の管理も大切です。
舐めないようにエリザベスカラーの装着をしましょう。
傷口が腫れてきたり膿んでくる場合は早めに病院へ相談しましょう。

術後間もないため、脚が床につかずに3本脚で歩くことがあります。

術後2週間〜2ヶ月

短いお散歩を開始します。
階段の上り下りやジャンプ、走ることは控えてください。
マッサージや関節を曲げ伸ばすリハビリを行います。

術後2〜3ヶ月

少しずつ骨がくっついてきます。
レントゲンにて骨の状態を確認しながら、運動量を増やしていきます。
プールのある施設で水中歩行などを始めてみても良いでしょう。

術後4ヶ月〜

多くの犬で今までのように走ったり遊んだりができるようになります。
こちらでお伝えする術後の経過やリハビリはあくまで目安になりますので、その子にあったリハビリを担当の獣医師と相談しましょう。

TPLOで起こる合併症

TPLOは高い確率で安全に行うことができる手術ですが、次のような合併症が起こることがあります。

  • 感染症
  • プレートの破綻や緩み
  • 骨の癒合不全
  • 後十字靭帯の断裂
  • 膝蓋靭帯炎
  • 半月板の再損傷

手術後も定期的に病院へ行き、足の状態をチェックしていきましょう。

まとめ

前十字靭帯断裂はどの犬にも起こりうる足の病気です。
放っておくと、痛みが続いてしまったり悪化して歩けなくなってしまうことがあります。

TPLOを実施することで多くの子がこれまでと同じように足を使って日常生活を送ることができます。
愛犬の歩き方に少しでも異変を感じた時には、放っておかず、当院にご相談してください。
最適な治療をし、愛犬の元気に走り回る姿を守っていきましょう。

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診察時間
9:00〜11:30
17:00〜18:30
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監修獣医師

柏原 誠也 獣医師のアバター 柏原 誠也 獣医師 伊那竜東動物病院 院長

2013年に宮崎大学獣医学科を卒業し、勤務獣医師を経て、兵庫県の動物病院グループ 医療センター長補佐・院長を歴任する。
2023年には動物病院京都本院の院長に就任する。
2024年に伊那竜東動物病院の院長に就任し、地域に高度な獣医療を提供している。

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