【緊急】一時気管切開は実施すべき?|一時気管切開の手術やその後の生活について獣医師が解説

診察台の上のフレンチブルドッグ

愛犬が突然、呼吸困難に陥ったら…。
そんな時、一時気管切開という手術が必要になることがあります。
初めて一時気管切開という言葉を聞く飼い主さんも多いのではないでしょうか。

今回は、一時気管切開はどのような時に必要になるのか、術後に必要なケアなどをお伝えします。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬のいざという時にしっかりとした知識を持って治療を選択できるよう参考にしていただければと思います。

目次

一時気管切開とは?

一時気管切開とは、気管に小さな切り込みを入れて、その切り口から直接チューブを入れて呼吸ができるようにする手術のことです。
通常、動物の呼吸は人と同じように鼻や口から空気を吸い込み、気管を通じて肺へ酸素を送り込む仕組みです。しかし、何らかの原因で鼻や喉、気管が塞がり、呼吸がうまくできなくなってしまうことがあります。
このような場合に一時気管切開をすることで、緊急的に気道を確保することができます。

一時気管切開が必要になるときは?

一時気管切開が必要になるのは、鼻口以外のルートで空気の通り道を確保しなければ呼吸ができずに死んでしまうときです。
犬が呼吸が苦しく、自分の力では十分な酸素を取り込めないときに動物病院ではまず挿管管理というものを行います。
口からチューブを入れて人工呼吸器に繋ぐことで呼吸をサポートしてあげます。
しかし、呼吸が苦しい原因によっては、口から挿管することができない・挿管しても抜管(チューブを抜くこと)することができないことがあります。
その時には、早急に気管を切開をして空気の通り道を作ることが必要です。

具体的には次のような病気の時に呼吸困難に陥り、挿管・抜管ができず一時気管切開が必要となることがあります。

上部気道の異常

  • 短頭種気道症候群:短頭種多い上部気道の構造異常で空気を取り込めない
  • 異物:喉に何かが詰まり空気を取り込めない
  • 麻痺:喉を動かすことができず麻痺していて空気を取り込めない
  • 腫脹:喉が腫れていて空気が取り込めない
  • 腫瘍:腫瘍が喉を塞いでいて空気が取り込めない

気管の異常

  • 気管虚脱:気管が潰れて空気が取り込めない
  • 気管内・気管周囲の腫瘍:腫瘍によって気管内が塞がれたり、外から気管が潰されて空気が取り込めない
心電図で検査されている犬

一時気管切開の手術について

一時気管切開の手術はどのように行うのでしょうか。
手術の方法や手術後の注意点をお伝えします。

一時気管切開の手術の流れ

一時気管切開の流れは次の通りです。
呼吸困難で緊急的に実施することもあれば、手術中に実施することもあります。

麻酔

全身麻酔が必要です。
安全に麻酔をかけられるかを確認する術前検査を行なってから手術に臨むことが望ましいですが、一時気管切開が必要な時は1分1秒を争う救急疾患なため、術前検査の前に実施することもあります。

気管の切開

気管の切開は1ヶ所です。横に数mm切開します。
切開した部分から気管にチューブを差し込みます。
最後にチューブが抜けてしまわないように固定をして終了です。

どのくらいの気管、チューブを設置するの?

一時気管切開はあくまで緊急的に気道確保をするための手術であり、チューブの設置自体は2〜3日です。
呼吸困難の原因が上部気道の腫瘍の際は、病理学的診断結果が出るまで設置し、7日前後となることもあります。

合併症

次のような合併症が出ることがあります。

  • 声が出ない、出にくくなる
  • 誤嚥性肺炎

そのほかにも気になることがあれば、獣医師に相談してください。

一時気管切開の後はどうするの?

まずは一時気管切開を乗り越えることが重要ですが、その後のことも気になりますよね。
一時気管切開の実施後は、状態に応じていくつか選択肢があります。

根本原因の解決

気道閉塞の原因が明確かつ治療ができる場合は、根本原因の治療を進めていきます。
例えば次のような追加治療が必要となります。

  • 腫瘍による気道閉塞:腫瘍を取り除く手術を実施
  • 炎症による気道閉塞:炎症に対しての治療を実施
  • 喉頭麻痺による気道閉塞:タイバックという喉頭の手術を実施

永久気管瘻造瘻術

呼吸困難の根本原因の解決が難しい場合は、長期的に気管に穴をあけて呼吸できるような永久気管瘻造瘻術を改めて行います。

毛布に入っている犬

一時気管切開後のお家での過ごし方

一時気管切開を実施したあとは、適切なケアが必要になります。
術後のケアをしっかり行わないと、感染や合併症のリスクが高まるため、飼い主さんの協力が必要不可欠です。

気管切開部を清潔に保つ

気管切開部とチューブの周囲は感染を起こしやすい状況になります。
チューブ内に細菌が入ってしまうと、肺炎につながる恐れがあります。
チューブの周りは清潔なガーゼで覆ったり消毒をすることで常に清潔に保ちましょう。

吸入器で気道を潤す

吸入器をチューブに当てることで、チューブや気管内を集中的に加湿されチューブや気管内の乾燥を防ぎます。

痰を吸引する

気管切開後は設置したチューブに痰が溜まってしまいます。
痰が乾燥して固まってしまったり、痰の塊が大きくなってしまうと、チューブを塞いで息ができなくなってしまいます。
快適に呼吸ができるようにサポートするために、数時間おきに痰を吸引してあげる必要があります。
痰の吸引は吸引機を使って行います。

まとめ

今回は一時気管切開についてお伝えしました。
一時気管切開は緊急時に気道を確保して呼吸をサポートすることができるとても大事な手術です。

愛犬の呼吸がおかしいと感じたら、迷わず当院へご連絡ください。
当院では緊急的な一時気管切開も含めて愛犬の治療を実施させていただきます。

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診察時間
9:00〜11:30
17:00〜18:30
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監修獣医師

柏原 誠也 獣医師のアバター 柏原 誠也 獣医師 伊那竜東動物病院 院長

2013年に宮崎大学獣医学科を卒業し、勤務獣医師を経て、兵庫県の動物病院グループ 医療センター長補佐・院長を歴任する。
2023年には動物病院京都本院の院長に就任する。
2024年に伊那竜東動物病院の院長に就任し、地域に高度な獣医療を提供している。

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